物流効率化の動向|業界課題や政府の方針をふまえた取り組みと事例

システム物流管理課題・改善

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物流の効率化は運送業界や、物流に関わる企業のコストマネジメントにおいて重要な課題です。しかし現代の物流に関する問題は、それだけに留まらないことをご存じでしょうか。

物流はあらゆるビジネスのインフラともいえる役割を果たしています。
たとえば、この記事を見るために必要なパソコンやスマートフォンは、金属などの材料を製造する企業、材料をもとに部品を作る企業、部品を組み合わせて完成品にする企業、完成品を売る企業と、複数の企業の間でモノを輸送することができて初めてユーザーの手に届きます。

だからこそ、物流の効率化は日本経済の発展や日常生活の利便性向上などに対しても大きな影響を及ぼします。また昨今はSDGsの重要性が世界的にさけばれています。物流は環境汚染などの分野における責任を担っている業界です。

こうしたことを踏まえて、この記事では広い視野に立って物流業界が抱える課題を解説するとともに、その対策や事例を紹介します。

物流効率化の動向|業界課題や政府の方針をふまえた取り組みと事例

物流業界が抱える課題

現在、物流業界では「効率化」を強く求められています。ここでいう「物流業界の効率化」とは、単に時間や費用といった面だけではなく、物流業界・利用者・社会といったあらゆる側面において無駄を少なくする、といったニュアンスを持ちます。

こうした背景を理解するために、まずは当事者である物流業界に焦点を当てて、現状を正しく理解していきましょう。

物流業界には現在、「人手不足」と「宅配需要の増加」という2つの課題があります。

< 人手不足 >

物流業界の人手不足は、年々深刻化しています。近年は宅配需要が増加していることで、より多くの人手が必要となっています。にもかかわらず、物流業界の人手はあまり増えていません。

その原因のひとつが少子高齢化です。物流業界に限ったことではありませんが、物流業界は労働人口の減少の影響をより顕著に受けています。物流業界の仕事は、「人の役に立てる」「社会貢献」といったポジティブなイメージの一方で、業務量の多さから労働環境に対してネガティブなイメージを持たれやすいことも大きいでしょう。

ドライバーの高齢化が進んでいる

実際、国土交通省が2018年に発表した情報によると、国内の全産業における40〜59歳の就業者平均が約35%に対し、道路貨物運送業で約45%と高い水準です。一方で29歳以下の就業者平均は全産業で約15%であるのに対し、道路貨物運送業は10%以下と低い水準となっています。

近年では女性ドライバーを積極的に雇用する取り組みをはじめ、さまざまな労働改革が行われているものの、その成果が出るまでにはまだ時間がかかりそうです。

2024年問題が迫っている

こういった人手不足による弊害は今でも見過ごせませんが、とくに大きな問題になると予想されているのが、通称「2024年問題」です。

「2024年問題」で最も注目されているのは、時間外労働時間の制限です。もともとは、働き方の改善や魅力的な職場づくりを目指し、2018年6月に働き方改革関連法が成立しました。2019年4月からは全産業を対象に労働関係法令が段階的に施行されています。

この労働関係法令で、「時間外労働の上限規制」や「有給休暇の取得義務付け」、「同一労働・同一賃金」などが定められています。自動車運転業務についても既に一部は適用されていますが、時間外労働の上限規制については猶予期間が設けられており、施行が2024年4月となっています。

これらの取り組みは働く人にとっては望ましいことでもあります。しかし、人手不足の課題を抱えたまま2024年を迎えると、物流に関する業務を今まで通り行うことが難しくなる可能性があります。

< 個人向け需要の上昇と法人向け需要の低迷 >

個人向け需要の上昇と法人向け需要の低迷

ここ数年でネットショッピングがますます身近になり、宅配需要が増加しました。需要の増加は収益アップとなり、望ましい変化だと捉えることもできます。しかし、運送会社にとっては再配達の問題などから、業務量が増加し、より人手不足が深刻化するなどの問題が起きています。

また、コロナ禍ではEC市場の伸長に伴い個人向けの宅配需要が高まった一方で、法人向けの荷物量は低調な推移となっています。

これによって運送各社の中には、物量確保のため輸送料金の値下げを行わなければならないケースも出てきました。しかし、値下げにより案件を確保しても、薄利多売ではドライバーやスタッフの人件費に十分お金を回すことはできず、給料も上がりません。結果的に、人手不足を悪化させかねないでしょう。

物流業界を取り巻く環境の変化

次に、物流業界を取り巻く環境についてです。社会全体が変化する中で物流業界にも求められるようになったのが、「デジタルトランスフォーメーション」と「SDGsに紐づく地球環境への配慮」です。どちらも物流業界に限らず、あらゆるビジネスで推進されています。

< デジタルトランスフォーメーション >

デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、デジタルテクノロジーを活用して、自社のサービスやビジネスモデルの変革、あるいは自社の業務や組織のあり方そのものを変革させることを指します。

物流業界におけるDXについては、国土交通省がまとめた「総合物流大綱(2021年度~2025年度)」でこのように書かれています。

この物流DXは様々な側面の変化を指しており、例えば次のような要素が挙げられます。

物流の機械化・デジタル化は、輸送情報やコストなどを「見える化」することを通じて、荷主等の提示する条件に従うだけの非効率な物流を改善するとともに、物流システムを規格化することにより収益力・競争力の向上が図られるなど、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させていくものである。こうした取組によりこれまでの物流のあり方を変革する取組を「物流DX」と総称する。

  • 倉庫内のロボット導入と、そのための梱包やパレットのサイズ標準化
  • システムを利用した各種伝票など書面のデータ化、およびそれによる業務効率化とデータ取り扱いの利便性アップ
  • サプライチェーンを横断したデータの共有による、業界全体での物流リソースの有効活用

こうした物流DXを実現させるためには、自社内だけでなくサプライチェーン全体を俯瞰した視点で物流をマネジメントできる人材が求められます。また、業界全体のあり方をより良くしていくために、物流DXには企業の垣根を越えた議論や取り組みも不可欠になっていくはずです。

< SDGsに紐づく地球環境への配慮 >

SDGsはSustainable Development Goalsの略で、世界各国が2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すための国際目標です。

目標には17のテーマがあり、貧困や飢餓、教育といった主に発展途上国を意識したものから、働きがいと経済成長、クリーンなエネルギーなど、先進国を中心に推進が求められるものもあります。

物流業界ではこの中でも、輸送時におけるCO2排出量の削減による「低炭素化」、さらには将来的な「脱炭素化」の大きな部分を担っています。そのための具体的な取り組みとして、次の章で紹介するモーダルシフトが一つの鍵となります。

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より効率的な物流を行うための取り組み

このように現代の物流業界は、深刻な人手不足や環境への配慮を求められる難しい局面にあります。しかし、この課題を根本的に解消するための解決策はすでに構想および実施されています。

それが「モーダルシフト」「共同配送」といった取り組みです。

より効率的な物流を行うための取り組み

< モーダルシフト >

モーダルシフトとは、これまでの輸送ルートを見直し、トラックだけでなく船便や鉄道便を併用することで物流の効率化を図る取り組みです。

モーダルシフトを行えば、多くの荷物を少ない人手で輸送することが可能になります。その結果として、ドライバーの労務問題改善につながるでしょう。

また、トラックでの輸送時に排出するCO2も削減できるため、環境にも優しい取り組みです。
※1トンの貨物を1km運ぶ際のCO2排出量は、トラックで225g、鉄道で18g、船舶で41g

< 共同配送 >

「共同配送」とは、複数の企業によって荷物の混載や倉庫の共有化などを行い、物流プロセスの効率化を図る取り組みです。

共同配送のしくみを構築すれば、企業間で重複する輸送ルートを一本化することや、過疎地域でのサービス最適化が実現できるでしょう。またそれに伴って、人手不足や労務問題にも改善が見られると予想されます。
現在は運送会社だけでなく、物流機能を持ったメーカー企業等同士で共同配送を構築するケースが徐々に増えてきています。

しかし、共同配送はメーカーにとってもコスト削減などのメリットがある一方、荷物の追跡が難しいことや、柔軟な対応を受けづらいなどのデメリットがあります。

これらのデメリットを案じて共同配送を受け入れないメーカーが出てくることは懸念点であり対策が必要となるでしょう。

< 事例 >

ここではモーダルシフトや共同配送をはじめとした、物流の効率化対策事例をいくつか紹介します。まずは国土交通省が2017年に発表しているモーダルシフトの事例を確認していきましょう。

取り組み企業 取り組み内容 年間における効果
・アサヒビール株式会社
・キリンビール株式会社
同業他社の連携による共同モーダルシフト ・CO2排出量2,700t(56%)削減
・ドライバー運転時間20,000時間(35%)削減
・三井倉庫ロジスティクス株式会社
・鈴与カーゴネット株式会社
・川崎近海汽船株式会社
トラック輸送から船舶輸送にモーダルシフト ・CO2排出量134t(78%)削減
・ドライバー運転時間2,976時間(67%)削減

上表の通り、モーダルシフトはCO2の排出量に関しても、ドライバー運転時間に関しても大幅な削減効果を得ています。

他にも、キヤノン株式会社や株式会社リコーをはじめとしたコピー機メーカー15社による共同配送を目指す動きもあります。現在はまだ実証試験段階ですが、共同配送が実現すれば使用するトラックの台数は3分の1以下に減らせる試算となっています。同時にCO2問題や人材不足にも好影響を与えることでしょう。

また、東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)では「新幹線物流」案に取り組んでいます。新幹線は旅客輸送を基本としていますが、JR東日本では特産品の輸送を空きスペースにて行うことを計画。これが実現されれば往来の地産品輸送によって発生するCO2および人材の削減、当日中の輸送により鮮度を保てるというメリットが得られるでしょう。

最新の取り組み

これらの事例に加えて、実現に向けて進められている取り組みもあります。

最新のテクノロジーを活用した例として、最終的な配達先(ラストワンマイル)への輸送にドローンを活用することや、コンテナを従来の2台分まで連結した「ダブル連結トラック」といった車両の登場など、物流の効率化に貢献するアイデアが生まれています。

また、路線バス会社と共同で貨客混載による配送や、自動車メーカーが水素燃料や電気といった次世代エネルギーを利用したトラックの開発を進めるといった動きもあります。

そのほか、「求貨求車サービス」もあります。求貨求車サービスとは、一度荷物を送り届け空となったトラック(およびドライバー)などと、輸送を依頼したい荷主をマッチングさせるサービスです。求貨求車サービスを利用することでより効率的な輸送が可能になるため、CO2問題や人材不足の改善にもつながります。

< 政府による働きかけ >

2024年問題が目前の今、物流業界の課題は国の課題でもあり、独自の働きかけがすでに行われています。

そのひとつがモーダルシフトや共同配送を促進するために行われている「物流総合効率化法」による税制特例です。統合効率化認定の申請は国土交通省の公式サイトから確認することができます。

この制度を利用することで、モーダルシフトや共同配送を取り入れる際にかかる経費に関して、国の補助(計画策定経費補助および運航経費補助)が受けられます。

まとめ コスト削減だけではなく環境の視点からも注目される効率化

メーカーからすると物流費用は販売コストの中でも、顧客に商品を届ける上で欠かすことのできない絶対的なコストでもあります。コスト削減方法のひとつとしても、モーダルシフトをはじめとした物流効率化の方法には今後も注目が集まるでしょう。

また昨今の物流業界における課題は、日本国民全体が取り組むべき課題といえるほど、深刻さを増しています。自社利益のためにも、日本そして地球のためにも、物流効率化は全業界のキーワードになっていくでしょう。