ホワイト物流とは|推進運動の賛同メリットや取り組み事例を紹介
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物流関係のニュースをチェックしていると、「ホワイト物流」という単語を目にすることがあると思います。この記事ではホワイト物流とはなにか、具体的な取り組みやメリット・デメリットも含めて紹介していきます。
ホワイト物流とは
ホワイト物流を一言で表すと「働きやすく生産性の高い物流」です。企業や業界の過酷な労働環境をブラック、健全で安心して働ける労働環境をホワイトと表しますが、物流業界でもホワイトな労働環境づくりを目指すという意味が込められています。
用語自体は2019年4月に政府主体で開始した「ホワイト物流推進運動」から使われるようになりました。この運動は現在も積極的に行われ運動に賛同する企業も年々増加しています。
ホワイト物流推進運動
国土交通省・経済産業省・農林水産省による①トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化②女性や60代の運転者等も働きやすいより「ホワイト」な労働環境の実現を目的とした運動です。運動に賛同する企業の公表や、物流課題の改善例の提供を行っています。
ホワイト物流推進運動の背景
政府が主導となってホワイト物流を推進している背景には、物流業界の深刻な人手不足があります。
自動車運送業従事者は1995年の98万人から、2015年で77万人弱にまで減少しました。物流は国の重要インフラですから、このまま人手不足が続けば経済活動へのダメージがあるかもしれません。では何故、人手が減少しているのでしょうか。大きく分けて2つの原因があります。
①少子高齢化問題
所属ドライバーの年齢構成で一番多い年代ついて、2020年4月のアンケート調査※では、40代と回答した企業が最多の47.5%、次いで50代が41.3%となりました。つまり40~50代だけでドライバーの90%近くを構成していることになります。
高齢ドライバーの定年退職が今後も増加していく一方で、若者の就業率は伸び悩んでいます。
※船井総研ロジ株式会社・トラボックス株式会社・物流ウィークリーによる調査。回答社数333社。
②長時間労働・低賃金問題
運送業において若者の就業率が低迷している理由の中に長時間労働・低賃金があります。
厚生労働省の調査では、トラック運転手の平均労働時間は全産業平均より約2割長い一方で、年間賃金は全産業平均より1~2割も低いことが明らかになりました。
運送業は、若手ドライバーにとって他の業種より魅力的とは言い難いのが現状です。
これらの問題を深刻に受け止め、解決に向け開始したのがホワイト物流推進運動となります。
賛同企業と取り組み事例
運動が開始してから2年以上が経過していますが、現時点でどのような企業が賛同し、どのような取り組みをおこなっているのでしょうか。
< 賛同企業数 >
2019年4月の開始以降、賛同企業数は2019年12月末時点の744社から、直近の2021年7月末時点で1,256社まで年々増加しています。業種別で見ると、運輸・郵便業が最も多く、次に製造業、卸売・小売業となっています。
< 企業の取り組み宣言例 >
企業が推進運動に賛同する際、ホワイト物流に向けて取り組む項目を選択し表明します(項目は非公開にすることもできます)。項目は以下の6つに分類されます。
項目名 | 主な内容 |
---|---|
A.運送内容の見直し | 物流システム(予約受付システムなど)や運送方法(モーダルシフト、高速道路利用など)を見直す。 |
B.運送契約の方法 | 契約の書面化や下請け取引の適正化を行う。 |
C.運送契約の相手方の選定 | 働き方改革に取り組む物流事業者を積極的に活用する。 |
D.安全の確保 | 安全対策や異常気象時の運行を中止する。 |
E.その他 | 宅配便再配達削減へ協力する。 |
F.独自の取り組み | その他の独自の取り組み。 |
取り組み項目を開示している企業について、いくつか例を挙げたいと思います。
※2020年8月時点の開示項目です。企業により内容を変更する可能性があります。
花王株式会社
A.運送内容の見直しのほか、F.独自の取り組みとして、土曜祝日の輸送依頼の縮小や、出荷日前々日の輸送依頼に努めると宣言しています。同社は初期から運動への参加を表明し、2018年度にはモーダルシフト化率50.1%を実現するなど積極的な活動を続けています。
※モーダルシフトとは:輸送ルートを見直し、トラックだけでなく船便や鉄道便を併用することで物流の効率化を図ること。
カゴメ株式会社
A.運送内容の見直し、B.運送契約の方法のほか、F独自の取り組みとして食品会社5社により共同配送網を展開し、積載率の向上・配送効率の向上を宣言しています。
※共同配送とは:複数の企業によって荷物の混載や倉庫の共有化などを行い、物流プロセスの効率化を図ること。
ソフトバンク株式会社
A.運送内容の見直し、B.運送契約の方法、C.運送契約の相手方の選定、D.安全の確保、F.独自の取り組みを挙げています。特にCに関して、運送契約の電子化・書面化の推進のほか、配送契約と荷役作業は別契約で実施、下請けに出す際の適切な対応を求める等、コンプライアンスを重要視した宣言を行っています。
賛同するメリットやデメリットはある?
ここまでホワイト物流を推進する重要性や、具体的な取り組み事例を見てきました。最後に、賛同するメリット・デメリットを確認しましょう。
< メリット >
国土交通省の推進運動ポータルサイトでは以下のメリットを掲げています。
- 業界の商慣行や自社の業務プロセスの見直しによる生産性の向上
- 物流の効率化による二酸化炭素排出量の削減
- 事業活動に必要な物流を安定的に確保
- 企業の社会的責任の遂行 等
もとは人手不足問題を解決するための運動ですから、生産性の向上や安定的な物流確保に繋がるのは頷けます。
更に、先述の取り組み項目で紹介した「モーダルシフト」は、代替輸送(鉄道・船舶)の方がトラックよりCO2排出量が少ないという特徴があります。また、「共同輸送」でトラックの積載率が向上すれば、今まで2台使用していたトラックが1台で済み、CO2排出量が削減できます。物流の効率化は環境保護にも寄与していると言えるでしょう。
SDGsへの貢献
ホワイト物流とは別に、近年国際社会では「SDGs(持続可能な開発目標)」が重要課題として認識され、個人を含め全産業・団体が取り組むべき17のゴールが設けられました。
物流業も「CO2排出量の削減」「女性の活躍」「過重労働の防止」「労働災害の予防」など、複数の目標に関係しています。しかしよく見てみると、多くがホワイト物流推進運動と共通の内容になっているのです。
つまり、ホワイト物流を目指して積極的に行動すれば、同時にSDGsにも貢献出来る事になります。勿論それぞれの役割はありますのでホワイト物流推進運動=SDGsとは言えませんが、どちらも社会貢献度が高いと理解できるかと思います。
< デメリット >
ホワイト物流の実現には、出荷人である企業と、輸送を行う運送業者それぞれに、高いハードルがあります。
出荷する企業のハードル(デメリット)
- 運送契約を見直すことで、輸送コストが上がる可能性がある。
- 輸送手段を変更することで、サービスレベル(荷物が届くまでの日数)が下がる可能性がある。
運送会社のハードル(デメリット)
- コスト重視の企業が、取り組みに応じてくれない可能性がある。
- 競合他社がホワイト物流に取り組まず長時間労働の継続や運賃の値下げを行った場合、競争に負け取引が減ってしまう可能性がある。
ドライバー運転時間やCO2排出量の削減に成功した事例も多いですが、一方でコストやサービスに関する懸念から話し合いが進まないケースも存在するようです。
その場合は早期実現を求めずに、先ずは企業と運送会社で十分なコミュニケーションを取り、お互いの立場を理解し合う所から始める必要があるのかもしれません。
ちなみにホワイト物流推進運動に賛同したものの、取り組み項目を行わなかった企業に対する罰則等のデメリットはありません。あくまで自主的な宣言の範囲に留まっています。
まとめ
物流業界の人手不足問題を受けて、2019年よりホワイト物流推進運動は始まりました。徐々に賛同企業は増加しており、これからの展開に対する期待は大きいです。今後は企業も物流業者も適切な利益を得られる取り組みを、社会全体で検討していくことが重要と言えるでしょう。