【専門家監修】パレット標準化とは?物流業界の現状と取り組み事例を紹介
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物流の現場では、荷物の積み下ろしや保管に欠かせないパレット。しかし、日本の物流業界ではパレットの規格が統一されておらず、サイズや形状が異なるものが混在しているため、効率的な物流の障壁となっています。本記事では、パレット標準化の意義や現状、そして具体的な取り組み事例について解説します。物流担当者の方は、ぜひこの機会に自社の物流改善のヒントを見つけてください。
この記事を監修した専門家
臼井 崇(うすい たかし)
大学卒業後、大手総合物流企業にてコンテナターミナル管理や物流提案営業を担当。その後、大学院で日本の物流の歴史や個別事例を研究し、修了後に荷主サイドへ転身。大手機械メーカーや外資系日用品企業で物流企画・物流管理を経験し、現在は大手化粧品・健康食品メーカーでKPI管理、物流改善、法規制調査に従事。
パレット標準化とは?物流効率化への重要な一歩
パレット標準化とは、物流で使用するパレットのサイズや仕様を統一し、物流全体の効率化を図る取り組みです。日本では「T11型パレット」(1,100mm×1,100mm×144~150mm)を標準規格として推進しています。
パレット標準化によって、積み替え作業の削減、保管効率の向上、輸送効率の改善などさまざまなメリットが生まれます。また、物流現場での労働負荷の軽減や環境負荷の低減にもつながるため、物流業界全体の課題解決に貢献する重要な施策となっています。
パレット標準化のメリット
パレット標準化には多くのメリットがあります。
まず、作業効率の面では、サイズが統一されることで発送から到着まで同じ規格のパレットによる輸送・保管が実現し、荷役時間が大幅に削減されます。国土交通省はパレット標準化の取り組みにより、2030年度までに荷役作業時間を一人あたり年間375時間から315時間以下に削減することを目標としています。
また、コスト面でも大きなメリットがあります。パレットの種類が少なくなることで在庫管理が容易になり、パレット自体の調達・保管コストも削減できます。さらに、標準化に合わせてレンタルパレットの共同利用が進めば回収や管理の効率化も期待できるでしょう。
環境面では、パレットの標準化により積載率が上がり、同じ物量でもトラック台数の抑制が可能となるため、CO2排出量の削減にも貢献します。
物流業界におけるパレット標準化の現状と課題
国土交通省の調査によると、現在の日本の物流現場ではパレット化が可能な荷物の一部も手作業による荷役作業が行われています。
また、貨物出荷時の物流拠点での積み替えが約50%発生しており、この非効率な作業が物流コストを押し上げる要因となっています。このような状況から、物流業界全体でのパレット標準化の必要性が高まっています。
パレット化率の低さと背景
どうして日本ではパレット化率が低いのでしょうか。日本でパレット化率が低い背景には、いくつかの要因があります。最大の要因は伝統的な商習慣です。日本では長らく「バラ積み・バラ下ろし」が当たり前とされてきた歴史があり、パレット導入のための変革に対して抵抗感を持つ企業も少なくありません。
また、多品種少量生産・多頻度配送が一般的な日本の物流環境では、パレット単位での輸送が難しいケースも多くあります。さらに、パレット導入には初期投資が必要となるため、特に中小企業にとっては負担が大きいという経済的な課題も存在します。
加えて、荷主企業と物流事業者の間や荷主企業間でパレット導入のメリットやコスト負担に関する認識の違いがあることも、パレット化が進まない要因の一つとなっています。
レンタルパレットの利用状況
パレット標準化の運用で重要なのがレンタルパレットです。しかし、日本でレンタルパレットの利用が進んでおらず、日本でのレンタルパレットの利用率は現在約30%にとどまっています。自社パレットを使用する企業が多く、パレットの回収・管理が複雑化している状況です。レンタルパレットは初期投資が不要で、管理の手間も削減できるメリットがありますが、まだ十分に普及していないのが現状です。
レンタルパレット事業者の中でも、T11型パレットの保有割合は76%となっており、2030年度までに85%以上へ引き上げることが目標とされています。また、レンタルパレットの総保有数量も現在の2,650万枚から5,000万枚以上に増やす計画が立てられています。
標準仕様パレットの規格と運用方法
日本で推進されている標準仕様パレットが「T11型パレット」です。この規格は、国内物流の特性を考慮して定められています。この標準化によって、物流のスムーズな連携が可能になります。
T11型パレットの詳細仕様
T11型パレットは、平面サイズが1,100mm×1,100mmで、高さは144~150mmとなっています。最大積載質量は1トンで、様々な産業の物流に対応可能な設計となっています。また、パレットの管理を効率化するため、タグやバーコードの装着が可能な仕様となっています。
フォークリフトでの作業効率を考慮し、差し込み方式は二方差しまたは四方差しに対応しています。このような標準化された仕様により、様々な物流現場で共通して使用できる汎用性の高いパレットとなっています。
現在、T11型パレットの生産数量は全体の26%を占めていますが、2030年度までに50%以上に引き上げることが目標とされています。この目標達成によって、物流全体での標準仕様パレットの普及が進み、効率化が実現するでしょう。
レンタル方式の推進と共同管理
パレット標準化を推進するにあたり、レンタル方式の活用が重要な鍵となっています。レンタル方式では、パレットの所有権はレンタル会社にあり、利用者は必要な時に必要な数だけ借りることができる運用方法のことです。これにより、初期投資を抑えつつパレット標準化のメリットを享受できるようになります。
さらに、複数のレンタルパレット事業者による共同管理・共同運用の検討も進められています。これにより、パレットの回収効率が向上し、物流コストの削減につながることが期待されています。現在、レンタル事業者間で共同回収を行う拠点は42箇所ですが、2030年度までに400箇所以上に拡大する計画です。
また、パレットの仕分け・回収作業の主体や費用負担の明確化も重要な課題となっています。これまでは曖昧だった責任分担を明確にすることで、スムーズなパレット運用が可能になるでしょう。
パレット標準化の取り組み事例と成功例
パレット標準化は、すでに多くの企業で実践され、具体的な成果を上げています。ここでは、実際の取り組み事例を紹介し、標準化によってどのような効果が得られるのかを見ていきましょう。
製造業でのパレット標準化事例
ある食品メーカーでは、これまで複数種類の自社パレットで納品を行っていましたが、標準仕様パレットへ切り替えることでパレットの積み替え作業が不要になり、手荷役削減を実現しました。この結果、荷役作業時間が約40%削減され、トラックドライバーの待機時間も大幅に短縮されました。
また、工場から製品倉庫までの社内輸送をすべてバラ積みで行っていた化学メーカーでは、標準仕様パレットを利用した輸送への切り替えを実施しました。これにより、倉庫での仕分け作業が効率化され、作業員の労働負荷が軽減されました。さらに、保管スペースの効率化によって倉庫の収容能力が15%向上するという副次的な効果も得られています。
これらの事例からわかるように、パレット標準化は単に荷役作業の効率化だけでなく、物流全体の最適化につながる可能性を秘めています。
小売業における成功事例
大手小売チェーンでは、取引先メーカーと協力して標準仕様パレットでの納品体制を構築しました。これまでは納品時にパレットから商品を降ろし、店舗用のカゴ台車に積み替える作業が必要でしたが、標準仕様パレットの導入により、このプロセスが簡略化されました。
具体的には、配送センターでの作業時間が1台あたり平均30分短縮され、年間の労働時間にして約5,000時間の削減に成功しています。また、作業の簡略化によりパートタイム従業員でも対応可能になり、人材確保の面でも大きなメリットが生まれました。
さらに、パレット標準化に合わせて商品の外装サイズも最適化することで、積載率が向上し、配送車両の台数削減にもつながりました。これは環境負荷の低減という観点からも大きな成果といえるでしょう。
2030年に向けたパレット標準化のロードマップ
国土交通省では、2030年度までのパレット標準化に向けた具体的なロードマップを策定しています。このロードマップに沿って計画的に標準化を進めることで、物流業界全体の効率化が進むことが期待されています。
短期的な目標(2024年度~2025年度)
短期的には、標準仕様パレットの活用推進が最優先課題となっています。具体的には、荷主企業や物流事業者へのT11型パレットの導入支援や、標準仕様パレットの周知活動が計画されています。また、パレットの仕分け・回収作業の主体の明確化も重要なテーマです。
この期間では、同時に、レンタルパレット事業者間の連携強化も図られ、回収拠点の増設や共同回収の仕組み作りが進められる予定です。
また、パレット標準化を支援する施策として、導入費用の一部を補助する制度も充実させていく計画です。
中長期的な取り組み(2026年度~2030年度)
中長期的には、パレット標準化をさらに推し進めるとともに、物流のデジタル化や自動化と、どのように連携していくかが重要なテーマとなっています。2026年度から2027年度にかけては、自動化・機械化の検討・実施や、標準仕様パレットに積み付けを行う際に積付効率が向上する外装サイズの検討が行われます。
2028年度から2030年度にかけては、レンタルパレット事業者間の共同プラットフォームの社会実装が目指されます。レンタルパレットの管理情報を一元化し、複数の企業間でリアルタイムに共有できるシステムの構築が計画されています。これにより、パレットの回収率向上やムダな輸送の削減が実現するでしょう。
まとめ
パレット標準化は、物流業界が抱える人手不足や非効率な作業プロセスといった課題を解決するための重要な取り組みです。本記事では、パレット標準化の意義から現状、具体的な事例、そして2030年に向けたロードマップまでを解説しました。
物流に関わる企業の皆様は、パレット標準化の流れを理解し、自社の物流戦略に取り入れることで、コスト削減や作業効率化といったメリットを享受できるでしょう。まずは自社の物流プロセスを見直し、標準仕様パレットの導入やレンタルパレットの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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